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Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm · 2026年 · HALT-MS 試験の追加解析 · 米国ほか

重い多発性硬化症の24名、自家造血幹細胞移植のあと炎症と神経損傷のマーカーが数年にわたり低下

重い再発寛解型の多発性硬化症の患者24名に、自分の造血幹細胞を使う移植(自家造血幹細胞移植)を行った HALT-MS 試験の保存検体を使い、血液と脳脊髄液にある約50項目の物質を5年間追った解析が、2026年9月に Neurology Neuroimmunology & Neuroinflammation 誌に掲載されました。多くの炎症物質と、神経の損傷を反映するマーカー(NfL)が、移植後に数年にわたって低下していました。ただし24名・対照群なしの試験で、移植そのものに重いリスクを伴う治療です。

この記事について

このページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。

何が起きた?

多発性硬化症は、免疫が脳や脊髄の神経を覆う髄鞘を攻撃する病気で、再発を繰り返します。薬で抑えきれない重い患者に、自分の造血幹細胞を使う移植(自家造血幹細胞移植)で免疫系を作り直す試みがあり、HALT-MS 試験はその第2相試験です。今回の論文は、その試験の保存検体を使い、移植のあとで体の中の何が変わったのかを調べたものです。

著者らは、24名の血液と脳脊髄液にある約50項目の物質を、移植前から最長5年にわたって測りました。脳脊髄液では、移植から24か月の時点で11項目が有意に低下し、2項目が上昇していました。低下した項目には、多発性硬化症に関わるとされる炎症物質(インターフェロンγ、IL-12/23p40 など)と、脳脊髄液中の免疫グロブリン(IgG、IgM)が含まれます。神経の損傷を反映するマーカー(神経フィラメント軽鎖、NfL)は、24か月と48か月の両方で移植前より低下していました。

なぜ脳脊髄液まで調べたのか

多発性硬化症の炎症は脳と脊髄の中で起きるため、血液だけでは様子が分からない可能性があります。ただし脳脊髄液の採取には腰椎穿刺が必要で、患者の負担があります。今回の解析では、血液と脳脊髄液で変化した物質がほとんど重ならず、両者の値が強く相関したのは NfL だけでした(相関係数 0.86)。血液は脳の中の炎症を映しきれていないことになり、一方で NfL は血液でも脳脊髄液の状態をよく反映していました。

この論文は仕組みの解明を目的としています。炎症物質が下がった理由が、移植で免疫細胞をいったん取り除いたことによるのか、そのあとに免疫系が作り直されたことによるのかは、この解析だけでは切り分けられていません。

数字をどう読む?

24名

解析の対象になった患者の人数
脳脊髄液は48か月時点で7名分に減っています(移植前24名、24か月18名、48か月7名)。比較する対照群はありません。

血清の NfL は、移植の直後(1〜2か月)にいったん上がり、24か月以降に移植前より低い水準になりました。前処置の影響で一時的に神経が傷つくことを示す所見と、その後の低下が、同じ検体から読み取れます。EDSS(障害度の指標)は1〜4年目に有意に低下していましたが、MRI の病変の変化が統計的に有意になったのは5年目でした。

24名のうち17名は5年間にわたり寛解が続き、7名は試験で定めた「新たな病気の活動」(再発3名、EDSS の悪化2名、MRI の新しい病変2名)に該当しました。7名と17名を見分ける単独のマーカーは見つかっていません。

まだ分からないこと

  • 24名の試験です。 時点ごとに検体の数が減っており、48か月の脳脊髄液は7名分です。
  • 移植を受けなかった比較群がありません。 マーカーの低下が移植によるものか、病気の自然な経過や他の要因によるものかは、この解析では分かりません。
  • マーカーの低下と臨床の改善は別です。 脳脊髄液の NfL が下がっても、その変化と臨床指標の変化との間に有意な関係は見つかりませんでした。
  • 移植そのものに重いリスクがあります。 化学療法による前処置を伴い、感染症などの重い合併症を起こしうる治療です。今回の解析では、有害事象の集計は示されていません。
  • 造血幹細胞の移植であり、MSCの点滴とは別の治療です。 幹細胞という言葉は同じでも、細胞の種類、目的、方法、リスクがまったく異なります。

研究情報

掲載誌
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm(オンライン公開 2026年9月28日、2026;13(6):e200653)
研究デザイン
HALT-MS 試験(NCT00288626)の追加解析。元の試験は前向き・非盲検・単群・多施設の第2相。米国、英国、スペインなどの研究者による
対象
重い再発寛解型の多発性硬化症の患者 24名。このうち17名が持続的な寛解を維持し、7名が試験で定めた「新たな病気の活動」に該当
介入
自家造血幹細胞移植。幹細胞を薬で血液中に動員して採取し、前処置(BEAM 療法と抗胸腺細胞グロブリン)のあと、CD34 陽性細胞を選別して戻す
調べたもの
血清は移植前から60か月まで9時点、脳脊髄液は移植前・24か月・48か月の3時点。約50項目の炎症物質と神経損傷のマーカー。脳脊髄液の比較対照として、多発性硬化症でない6名の検体
結果
脳脊髄液では24か月時点で11項目が有意に低下し、2項目が上昇。NfL は24か月と48か月の両方で低下。血清の NfL は1〜2か月に一時上昇したあと、24か月以降は移植前より低下。EDSS(障害度の指標)は1〜4年目に有意に低下
有害事象
この解析は検体の分析が中心で、移植に伴う有害事象の集計は論文本文に含まれていません(ウイルス再活性化は、サイトメガロウイルス10名・EB ウイルス12名で検出)
資金
米国の NIH 傘下の研究所(NIAID、NCATS、NIDA)の助成。測定の一部を受託した Meso Scale Diagnostics 社の助成を含む
利益相反
Meso Scale Diagnostics 社の現・元従業員と社長が著者に含まれる。ほかに製薬企業からのコンサルタント料や研究費を申告した著者がいる
注意
24名の試験で、移植を受けなかった比較群はありません。自家造血幹細胞移植は、化学療法による前処置を伴い、重い合併症を起こしうる治療です。MSC(間葉系幹細胞)とは別の細胞、別の治療です

結果の範囲

この結果が示していること

  • 重い再発寛解型の多発性硬化症の患者24名で、自家造血幹細胞移植のあと、多くの炎症物質と神経損傷のマーカー(NfL)が数年にわたり低下していたこと
  • 血清と脳脊髄液で変化した物質がほとんど重ならず、両者が強く相関したのは NfL だけだったこと
  • 24名のうち17名で、5年間の寛解が続いたこと(論文の記載)

この結果が示していないこと

  • この移植で多発性硬化症が治ること(24名・対照群なしの試験で、マーカーの変化を調べた解析です)
  • 他の患者でも同じ変化が起こり、同じ割合で寛解が得られること
  • MSCなど他の幹細胞を用いる治療に同じ結果が当てはまること
出典
この記事について

このページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。

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