トップ/幹細胞ニュース/型1 臨床試験の結果

Med · 2026年6月 · 2名の長期追跡 · イタリア

重い自己免疫疾患の2名、ドナーの造血幹細胞を移植して15年以上再発なし

視神経と脊髄を繰り返し攻撃し、視力や歩行を奪う希少な自己免疫疾患「視神経脊髄炎」の患者2名に、他人(ドナー)の造血幹細胞を移植した長期追跡の結果が、2026年6月に Med 誌に掲載されました。移植から16年と15年が経過し、2名とも免疫抑制薬を使わずに寛解が続き、病気の原因となる抗体は検出されなくなっています。ただし2名の報告であり、ドナーの造血幹細胞移植は移植そのものに重いリスクを伴う治療です。

この記事について

このページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。

何が起きた?

視神経脊髄炎は、自分の免疫が視神経と脊髄を繰り返し攻撃する希少な病気で、発作のたびに視力や歩く力が失われていきます。近年は複数の薬が承認されましたが、それでも発作を抑えられない患者がいます。今回報告された2名は、いくつもの免疫抑制薬が効かなかった患者でした。

2名は16年前と15年前に、他人(ドナー)の造血幹細胞移植を受けました。骨髄の造血を、いったん薬で抑え込んだうえで、ドナーの幹細胞に置き換える治療です。移植後、2名とも免疫抑制薬を使わない状態で発作が止まり、画像上も病気の活動は見られなくなりました。病気の原因となる抗体(抗アクアポリン4抗体)は移植後に検出されなくなり、15年以上たった今も陰性のままです。

なぜ「他人の」造血幹細胞なのか

造血幹細胞は、血液と免疫の細胞のすべてを生み出すもとになる細胞です。自分の造血幹細胞を使う移植(自家移植)は、免疫系を一度リセットする目的で複数の自己免疫疾患に試されてきましたが、病気を起こす性質を持つ免疫細胞が再び現れることがあります。ドナーの造血幹細胞を使えば、免疫系そのものを他人のものに入れ替えることになり、原因となる抗体を作る細胞が戻りにくいと考えられます。実際に2名では、ドナー由来の造血が完全に維持され、免疫を調節する制御性T細胞の再構築も観察されました。

ただし、他人の細胞を使う造血幹細胞移植には、移植した免疫細胞が患者の体を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)や、前処置による感染症など、死亡を含む重いリスクがあります。今回の2名にはGVHDは起こりませんでした。

「15年以上再発なし」をどう読む?

2名

この報告で追跡された患者の人数
薬が効かなかった患者から選ばれた2名で、比較する対照群はありません。

15年を超える寛解と、原因抗体が消えたままであることは、この病気では例のない長さの経過です。一方で、2名という人数では、同じ治療を受けた患者のうちどれだけの割合で寛解が得られるか、どれだけの割合で重い合併症が起こるかは分かりません。著者らも、患者の選び方、安全性、長期の利益を確かめるための今後の研究が必要だとしています。

まだ分からないこと

  • 2名の報告です。 成功した例だけが報告されている可能性があり、治療全体の成功率や合併症の頻度は分かりません。
  • 対照群がありません。 承認済みの薬による治療と比べた優劣は判断できません。
  • 移植そのものに重いリスクがあります。 一般に、他人の造血幹細胞移植は死亡を含む合併症を伴い、薬が効かない重症の患者に限って検討される治療です。
  • 造血幹細胞の移植であり、MSCの点滴とは別の治療です。 幹細胞という言葉は同じでも、細胞の種類、目的、方法、リスクがまったく異なります。

研究情報

掲載誌
Med(オンライン公開 2026年6月15日、2026;7(7):101179)
研究デザイン
2名の長期追跡(症例報告)。イタリア(ミラノ、サン・ラファエレ科学研究所)
対象
抗アクアポリン4抗体(AQP4-IgG)陽性で、複数の免疫抑制薬が効かなかった視神経脊髄炎の患者 2名(海外報道によれば男性1名、女性1名)
介入
他家(ドナー)造血幹細胞移植。それぞれ16年前と15年前に実施
結果
2名とも、免疫抑制薬を使わずに臨床的・画像的な寛解が持続。AQP4-IgG は移植後に検出されなくなり、追跡期間を通じて陰性。移植片対宿主病(GVHD)は起こらず、ドナー由来の造血が完全に維持。制御性T細胞の再構築を観察
有害事象
GVHDなし。移植時の前処置や感染症などの経過は抄録に記載がありません
資金
なし(論文の記載)
利益相反
著者は利益相反なしと申告
注意
2名の報告で対照群はありません。ドナーの造血幹細胞移植は、前処置の化学療法とGVHDなど、死亡を含む重いリスクを伴います。MSC(間葉系幹細胞)とは別の細胞、別の治療です

結果の範囲

この結果が示していること

  • 薬が効かない視神経脊髄炎の患者2名が、ドナーの造血幹細胞移植の後、15年以上にわたり免疫抑制薬なしで寛解を続けていること
  • 2名で病気の原因となる抗体が移植後に検出されなくなり、陰性が続いていること
  • 2名で移植片対宿主病が起こらなかったこと

この結果が示していないこと

  • この治療で視神経脊髄炎が治ること(2名の報告で、対照群がありません)
  • 他の患者でも同じ割合で寛解が得られ、合併症が起こらないこと
  • MSCなど他の幹細胞を用いる治療に同じ結果が当てはまること
出典
この記事について

このページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。

← 記事一覧に戻る · 編集方針