このページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。
動物実験は、ヒトに投与する前に、細胞がどこに行き、どのような仕組みで働き、どの程度の量で毒性が出るかを調べるために行われます。ヒトで試験を行う根拠を作る段階であり、ヒトでの効果を証明する段階ではありません。ヒトでの効果は、ヒトを対象とした無作為化比較試験でしか確認できません。
Emory 大学のグループは、実際に第3相臨床試験で使われている骨髄由来MSCと臍帯組織由来MSCを入手し、ラットの膝に人工的に作った関節症のモデルで比較しました。結果は骨髄由来が優れており、骨髄由来のみが軟骨の減衰を正常化し、痛みの反応と歩行の異常を改善しました。臍帯由来では軟骨下骨の多孔化が増えるという不利な所見も報告されています。
この研究は設計が丁寧で、比較の対象も臨床で使われている細胞そのものです。それでも、次の理由から、この結果を「骨髄由来MSCはヒトの関節症に有効である」と読むことはできません。
使われたのは3か月齢の若い雄のラットで、手術によって急に作られた関節の損傷です。ヒトの変形性関節症は高齢者に長い年月をかけて起こり、肥満や代謝の状態、性別も影響します。若い動物の急性の損傷が治る仕組みと、高齢のヒトの慢性の変化が進む仕組みは同じではありません。
ラットの膝に100万個を注射した結果を、ヒトの膝に何個注射すればよいかに換算する確立した方法はありません。体重比でも関節の容積比でも、細胞の生着や分布は異なります。静脈内投与であれば、肺に捕捉される割合も動物種によって違います。
この研究の評価は、術後6週の組織の画像、痛み刺激への反応、歩き方の変化です。ヒトの臨床試験で問われるのは、本人が感じる痛み、日常生活の機能、手術を避けられるか、それが何年続くかです。動物の組織所見が良くても、ヒトの生活機能の改善に結びつくとは限りません。
著者ら自身が「両方の由来でドナー間に効果のばらつきを観察した」と記しています。同じ「骨髄由来MSC」という名前でも、どのドナーの細胞かによって結果が変わるということです。これは、ある製品の研究結果を別の製品に当てはめられない直接の理由でもあります。
この研究は関節内への注射です。静脈内投与(点滴)では、細胞は全身を循環し、多くが肺に留まります。関節内で得られた結果は、点滴で同じことが起きる根拠にはなりません。
動物実験を越えてヒトの試験に進んでも、結果の読み方には注意が要ります。事前に登録した主要評価項目と評価時点で達成されたか、盲検化されていたか、対照群はプラセボか、人数は十分か、資金提供者と著者の関係はどうか、といった点です。当メディアの臨床試験の記事では、これらの項目を「要点」の表に必ず記載しています。具体例として、事前登録の評価時点と論文が強調する時点が異なる試験、盲検化されていない試験、承認後の確認試験で結果が再現されなかった製品の記事をご覧ください。
動物実験の紹介では、動物の種類、モデルの作り方、投与経路と用量、評価した時点を必ず書き、見出しと本文で「前臨床」と明記します。「効果が確認された」「有効性が示された」という表現は、ヒトを対象とした無作為化比較試験の主要評価項目が達成された場合に限って使います。
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