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New England Journal of Medicine · 2026年9月24日 · 非盲検・単群(3つの研究の統合) · 27名

遺伝子を補った自分の造血幹細胞を1回点滴、重い感染症が「年2.0回」から「年0.15回」に 希少な免疫不全症の27名・対照群なし

ウィスコット・アルドリッチ症候群は、1つの遺伝子の変化によって免疫と血小板がうまく働かなくなる、生まれつきの希少な病気です。重い感染症や出血を繰り返し、根本的な治療はこれまで、型の合うドナーからの造血幹細胞移植に限られていました。イタリアのサン・ラファエレ・テレソン遺伝子治療研究所などのグループは、患者自身の造血幹細胞を取り出して正常な遺伝子を補い、体に戻す治療を27名に行い、その長期の結果を2026年9月24日に New England Journal of Medicine に発表しました。追跡の中央値は5.7年で、重い感染症の頻度は治療前の1年と比べて大きく減っています。この治療は2025年12月9日に米国食品医薬品局(FDA)が承認しており、FDA はこの病気に対する初めての遺伝子治療と発表しています。

この記事について

このページは、海外を含む幹細胞研究の論文・臨床試験・報道を日本語で紹介する記事です。紹介する試験の結果は、その試験で用いられた細胞製品・投与方法・対象者に限られ、他の製品や当社がご案内する治療の効果を示すものではありません。当社は紹介する研究・製品に関与していません(関与がある場合は記事内に明記します)。このページでは治療のご案内は行っていません。

何が試された?

ウィスコット・アルドリッチ症候群は、主に男の子に起こる生まれつきの病気です。WAS という遺伝子の変化で、免疫の細胞と血小板が正常に働かず、重い感染症、出血、湿疹を繰り返します。根本的な治療は、型の合うドナーから造血幹細胞(血液の細胞のもとになる細胞)を移植する方法に限られていましたが、ドナーが見つからない患者も多く、移植片対宿主病などの合併症の心配もありました。

今回の治療では、患者自身の造血幹細胞を取り出し、体の外で、無害化したウイルスを運び役にして正常な WAS 遺伝子を組み込みます。患者は、もとの骨髄の働きを弱める前処置の薬を受けたあと、遺伝子を補った自分の細胞を1回点滴で受けます。戻った細胞が骨髄に定着すれば、正常な遺伝子を持つ血液の細胞が作られ続けるという考え方です。自分の細胞を使うので、ドナーを探す必要がありません。

何が分かった?

論文は、イタリアで2010年に始まった第1/2相試験(8名)、イタリアと米国の第3相試験(10名)、正式な試験の外で治療を受けた拡大アクセスプログラム(9名)の計27名をまとめて解析しています。治療時の年齢は中央値2.6歳で、1歳から35歳までが含まれます。生存している人の追跡期間は中央値5.7年、最も長い人で13年を超えています。

1年後と5年後の生存率はいずれも96%で、27名のうち1名が亡くなりました。重い感染症は、治療前の1年間には1人あたり年2.00回起きていたのに対し、治療後6〜18か月の期間では年0.15回でした。FDA はこれを93%の減少と説明しています。中等度以上の出血は、治療前の年2.00回から、治療後1年間で年0.80回に減りました(FDA の説明では60%の減少)。

安全性の面では、グレード3以上の有害事象で最も多かったのは、点滴のために入れる中心静脈カテーテルに関連した感染症でした。この病気の遺伝子治療では、以前に別の種類のウイルスベクターを使った試験で白血病が起きたことがあり、今回の運び役はその反省から改良されたものです。今回の27名では、遺伝子の組み込みが原因となる腫瘍化の証拠は認められなかったと報告されています。

研究情報

掲載誌
New England Journal of Medicine 395巻12号 1193–1205ページ(2026年9月24日)
試験デザイン
3つの研究の統合解析。第1/2相試験(8名)、第3相試験(10名)、拡大アクセスプログラム(9名)。いずれも非盲検・単群(同時に比べる対照群なし)。効果は治療前の1年間と比べて評価
登録番号
NCT01515462 ↗(第1/2相、イタリア、8名、2010年開始・2023年完了)、NCT03837483 ↗(第3相、イタリア・米国、10名、2019年開始)。いずれもスポンサーは Fondazione Telethon
対象
ウィスコット・アルドリッチ症候群の 27名。治療時の年齢は中央値 2.6歳(1.0〜35.1歳)
細胞
患者自身の造血幹細胞・前駆細胞(自家)。体の外でレンチウイルスベクターを用いて正常な WAS 遺伝子を組み込んだもの
投与
リツキシマブと、強度を弱めた前処置(化学療法)のあと、1回点滴
主要評価項目
全生存、治療後6〜18か月の重い感染症の頻度、治療後12か月の中等度以上の出血の頻度
主な結果
追跡の中央値 5.7年(2.3〜13.3年)。1年・5年の全生存率はいずれも 96%(1名が死亡)。重い感染症は1人1年あたり 2.00回(95%信頼区間 1.50〜2.61)→ 0.15回(0.04〜0.39)。中等度以上の出血は 2.00回(1.50〜2.61)→ 0.80回(0.49〜1.22)。いずれも治療前の1年との比較
安全性
グレード3以上で最も多かった有害事象は、中心静脈カテーテルに関連する感染症。遺伝子の組み込みが原因となる腫瘍化の証拠は認められなかった。死亡した1名の死因は抄録に記載がありません
承認
米国 FDA が 2025年12月9日に承認(Waskyra、一般名 etuvetidigene autotemcel)。対象は、造血幹細胞移植が適切で、型の合う血縁ドナーがいない生後6か月以上の患者
資金
Fondazione Telethon ほか(抄録の記載)
利益相反
個々の著者の開示内容は抄録に記載がありません。著者のうち複数名は、開発元でありスポンサーである Fondazione Telethon(イタリアの非営利団体)に所属

米国での承認

この治療は、2025年12月9日に米国 FDA が承認しました。FDA の発表によれば、ウィスコット・アルドリッチ症候群に対する初めての細胞を用いた遺伝子治療で、非営利団体が申請者となって承認された初めての細胞・遺伝子治療製品でもあります。対象は、造血幹細胞移植が適切で、型の合う血縁のドナーがいない生後6か月以上の患者です。FDA は、希少な病気であることを踏まえ、拡大アクセスプログラムのデータも含めて審査したとしています。FDA が挙げた主な副作用は、発疹、気道の感染症、発熱を伴う好中球の減少、カテーテルに関連する感染症、嘔吐、下痢、肝臓の障害、点状の出血です。

ここまでしか分からないこと

  • 同時に比べる対照群がありません。 効果は、同じ患者の治療前の1年間と比べて評価しています。成長や、感染症の予防の方法の変化など、時間の経過による影響を完全には切り分けられません。
  • 27名の結果です。 患者数のとても少ない病気で、3つの研究をまとめても27名です。拡大アクセスの9名は、正式な試験とは条件が異なります。
  • 出血は減りましたが、なくなってはいません。 治療後1年間の中等度以上の出血は年0.80回で、95%信頼区間は0.49〜1.22回でした。
  • 前処置の薬を必要とする治療です。 骨髄の働きを弱める薬を使うため、感染症などのリスクを伴います。27名のうち1名が亡くなっており、その死因は抄録に記載がありません。
  • 13年を超える経過はまだ分かりません。 遺伝子を組み込んだ細胞の長期の安全性は、今後も追跡が続けられます。
  • この遺伝子の病気に対する治療です。 遺伝子の変化が原因の病気で、足りない遺伝子を補うという仕組みに基づいています。他の病気や、遺伝子を補わない幹細胞の治療に当てはまるものではありません。

結果の範囲

この結果が示していること

  • ウィスコット・アルドリッチ症候群の27名で、遺伝子を補った自分の造血幹細胞を1回点滴したあと、重い感染症の頻度が治療前の1年より低かったこと
  • 中央値5.7年の追跡で、5年生存率が96%だったこと
  • 27名の追跡期間中に、遺伝子の組み込みが原因となる腫瘍化の証拠が認められなかったこと
  • 米国 FDA が2025年12月にこの治療を承認したこと

この結果が示していないこと

  • 対照群と比べて効果が確かめられたこと(治療前の1年との比較です)
  • ウィスコット・アルドリッチ症候群以外の病気に当てはまること
  • 遺伝子を補わない造血幹細胞や、間葉系幹細胞(MSC)など他の幹細胞に当てはまること
  • 13年を超える長期の効果や安全性
出典
  • Ferrua F, Cenciarelli S, Giannelli S, et al.; WAS Gene Therapy Group. Etuvetidigene Autotemcel for the Treatment of Wiskott-Aldrich Syndrome. N Engl J Med. 2026;395(12):1193-1205. doi:10.1056/NEJMoa2515005 ↗ · PubMed 42777242 ↗
  • ClinicalTrials.gov 登録情報 NCT01515462 ↗・NCT03837483 ↗(相、登録人数、スポンサー、実施国を確認。2026年10月13日閲覧)
  • U.S. Food and Drug Administration. FDA Approves First Gene Therapy Treatment for Wiskott-Aldrich Syndrome. 2025年12月9日. FDA ニュースリリース ↗ · FDA 製品ページ ↗(2026年10月13日閲覧)
  • 資金・利益相反: 論文の抄録と著者の所属(PubMed、2026年10月13日閲覧)。本文の開示欄は閲覧できていません
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